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不動産の名義変更をしないリスク
他のページでも触れていますように、相続が開始したからと言って必ずしも不動産の名義を変える必要はありません。
しかし、不動産の名義をそのままにしておくと後々において面倒なことや余計な費用がかかったりするケースがあります。
数次相続について
例えば以下のような家族関係があったとします。
被相続人が不動産を所有している場合、遺産分割協議を行わなければ不動産の持ち分は
- Aが3分の1
- Bが3分の1
- Cが3分の1
となります。
ここで相続による不動産の名義変更を行わず、被相続人名義のままにしておいたとします。
そして、年月が経ちBが死亡したとします。
すると、Bの持ち分はそのままX・D・Eに引き継がれますので不動産の持ち分は
- Xが12分の2
- Dが12分の1
- Eが12分の1
という形になります。
※相続分の考え方はこちらを参考にしてください。
このような形の相続を数次相続と呼びます。
この時点で仮に不動産の名義をAにしたいと考えた場合、遺産分割協議書を作成します。
本来であればA・B・Cの3人で遺産分割協議を行えば良かったところ、既にBが死亡しているため、このケースにおいてはA・C・X・D・Eの5人で遺産分割協議書を作らなくてはなりません。
相続人が未成年者
上記例で仮にDとEが未成年者だとします。
そうすると、遺産分割協議を行うにあたって特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要が出てきます。
XとD及びEは互いに利益が相反する(つまりお互いの利益が相互に影響を受ける関係にある)ため、いくらDとEの親だとしてもXは子のDとEを代理して遺産分割協議を行うことが出来ません。
特別代理人の選任申し立ては家庭裁判所に対して行います。
このケースではD及びEそれぞれに別の代理人が必要となるため特別代理人は2人用意する必要があります。
Bが死亡した際、Xが相続放棄をしたとしても特別代理人の選任申し立てを要します。
Xは相続放棄をしたためD、若しくはEの代理人として遺産分割協議を行えますが、DE双方の代理人となることが出来ません。
このため、このケースにおいても特別代理人の選任申し立てをする必要があります。
成年被後見人が含まれる場合
今度はABC全員が生存しているが、Cが認知症になってしまったケースを考えてみましょう。
このケースにおいてCは遺産分割協議に参加することが出来ません。
Cのために後見開始の申し立てを家庭裁判所に対して行い、成年後見人を選任する必要があります。
時間を要する後見開始の申し立て
以前に比べると申し立てから後見開始決定までの所要期間は短くなったと言えますが、それでも2か月程度は見ておく必要があります。
ただ、上記した2ヶ月というのは必要書類の全てが揃っていることが条件であるため、準備期間から考えるともう少し余裕を見ておく方が無難と言えます。
本人の判断能力を鑑定するために鑑定費用が必要になるケースがありますが、全体の1割程度とその割合は少ないようです。
費用面のリスク
上記したように相続が開始した後に別の事情で手続きが煩雑になる可能性があります。
これに加えて費用の面でも余計に負担が生じる可能性が高くなります。
例えば、上記したような手続きを行うにあたっては家庭裁判所に手数料を支払う必要があります。
これらは数百円程度のため大きな負担にはならないとも言えます(後見登記には別途2,600円が必要になります)。
しかし、家庭裁判所への手続きや必要書類(戸籍謄本など)の確保をご自身でされる場合は非常に面倒な作業だと言えます。
そこで、これらの手続きを司法書士や弁護士に依頼するとなるとその費用が発生します。
また、仮に冒頭で記載したように数次相続の形で相続登記が行えたとしても、それを司法書士に依頼するとなれば通常よりは費用が高くつく形になります。
財産の大小で報酬額を定めている事務所もありますが、一般的にはその作業の内容によって報酬は決まります。
絶対ではありませんが、数次相続の場合は作業量が多くなるため費用も割高になる可能性があると言えます。
不動産の名義変更はなるべく早めに
これまで記載した内容はごく一部の例に過ぎません。
図で示した家族関係は説明上Bのみ子供が居る形を取りましたが、実際には他の相続人にも家族がいることが殆どです。
それらを踏まえると、相続による不動産の名義変更を行わない場合に起こりうるリスクはもっと増えると言えます。
ただ、不動産の相続登記をする場合には必ず登録免許税が必要になります。
この費用負担が大きいことが理由で相続登記をしないケースもよくあります。
こうしたことから無理に無理を重ねてまで相続登記をする必要はありません。
しかし、なるべく早めに手続きをする方が良いと言えるのではないでしょうか。
実際に数次相続のケースは御相談においても非常に多く、内容によっては比較的簡単に手続きを終わらせることが出来るケースもあります。
取り敢えず、御自身の場合はどのような手続きをする必要があるのかだけでも知っておくと安心できると思います。
お困りの場合は遠慮なくご相談下さい。